日経ビジネスは2009年10月に創刊40周年を迎えます。そのカウントダウン企画として、過去の記事の中から、人気シリーズ企画「誤算の研究」を毎日掲載していきます。企業戦略の現実は理論書の通りには進みません。戦略の本質は、むしろ誤算の中に隠れています。その後の成長を確実なものにした企業あり、再編の渦に巻き込まれて消滅した企業あり、ケーススタディーの対象は様々です。記事に描かれているのは過去の出来事とはいえ、時代を超えた企業経営の指針が読み取れるはずです。
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1992年8月31日号より
コンピューター事業が重大な岐路にさしかかっている。演算用チップの供給元であるミップス社の身売り、提携先の米ベンチャー企業の解散。相次ぐ予想外の事態をどう乗り切るか。
(松平 由美子)
今年3月12日、クボタのコンピューター事業の中核会社であるクボタコンピュータ社内は慌ただしい雰囲気に包まれた。提携先の米ミップスコンピュータシステムズがシリコングラフィックス(SGI)に吸収合併されるというニュースが流れたからだ。部門別に社員を緊急招集、経緯を説明したり善後策の協議をするなど、経営陣は忙しい一日を送った。
ミップス社は米カリフォルニア州に本社を置くハイテクベンチャー。縮小命令セットコンピューター(RISC)プロセッサーの有力企業として、その設計技術を世界の有力半導体メーカーに供与していることで知られる。
多角化の一環としてコンピューター分野に進出していたクボタは、子会社のクボタコンピュータを通じて三次元グラフィックスワークステーション(WS)「TITAN(タイタン)」を生産・販売している。タイタンに搭載しているRISCチップはすべてミップス社の設計に準拠したものである。
1987年10月には、関係を強めるため、ミップス社の株式20.0%を取得、合併時にも17.8%を所有する筆頭株主だった。
そのミップスとSGIが突然合併した。しかもSGIはクボタコンピュータの最大のライバル企業だから話は穏やかではない。
RISCチップはWSの性能のカギを握る、いわば心臓のようなもの。それを敵に握られてしまったのである。
昨年末はタイタンの開発会社が解散 1億900万ドルの投資が無駄に

この合併劇はクボタにとっては寝耳に水だった。ミップスとSGIのトップがクボタを訪れ、合併の承認を求めたのは、両者の間で話が完全に決まった後。それまでクボタは完全にカヤの外に置かれていた。
クボタはタイタンの後継機種からは米ディジタル・イクイップメント社の「アルファチップ」を使用することに決めていた。「今回の合併で事業基盤が揺らぐことはない」とコンピューター事業を統括する岡本修専務は語る。
しかし、クボタは今後、ミップス社のチップを上級機種に使用していくことを事実上あきらめざるを得なくなった。クボタは市場評価がまだ定まっていないアルファチップ一本に絞って、新機種開発を進めなければならなくなった。
クボタがミップス社に出資したのはチップの開発情報をいち早く得て製品開発に生かし、ライバルに差をつけようという狙いからである。しかし、この合併で出資は意味をなさなくなった。
クボタは、昨年末にタイタンの開発会社である米スターデントコンピュータが解散するという憂き目に遭っており、コンピューター事業で誤算が相次いだ。
コンピューター事業への進出を計画していたクボタはたまたま米国のハイテクベンチャー、アーデントコンピュータ(当時デーナ)がタイタンを開発しているのを知り、資本参加した。
そのアーデント社が経営基盤を強化するために、ライバル会社だったステラコンピュータと89年10月に対等合併してスターデント社が生まれた。合併後もクボタは筆頭株主(28.1%)で、スターデント社がタイタンの改良や新製品開発をし、クボタが生産・販売することになっていた。
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